麻酔を使う意味
医療行為とは極端な言い方をすると、体を傷つける行為です。風邪薬も極論は毒です。しかし、結果として体の状態を正常に保つための方向に導くので、医療行為は正当な処置として認められる訳です。
医療行為は、その手法によっては痛みを伴います。
痛みが強ければ当然ショックを起こす人もいます。それでは十分な医療行為は行えません。
そのためには医療行為を行う上での痛みを無くす、あるいは緩和する、あるいは最小限の痛みにとどめる行為が必要です。
そのための処置が麻酔です。麻酔は処置をする前の前段階の処置なのです。
当然麻酔は色々な手法がありますが、歯科で行う麻酔は一般的に注射になります。
当然注射は怖いです。大人でも嫌です。しかし、麻酔をする事により処置中の苦痛がなくなり、処置に耐えることが可能となります。
それは子供の処置も同じです。
麻酔が嫌で泣いているのと、痛くて泣いているのでは全く意味が違います。
前者は処置の重要性の理解と恐怖とのバランスの問題ですが、後者は拷問です。
中には、子供は泣くから麻酔をしない、あるいはさせたくないと考える人もいますが、逆の立場で考えてください。
痛くなる事が想定されているのに麻酔をしないと言うことは、これから拷問にかける問い事になります。
麻酔を含めた薬の子供への安全性
子供用の薬でも、子供への安全性は全て不明と記載されています。それなぜかというと、未成年に対しての人体実験が法律で許可されていないからです。ただ医師の裁量権と経験から使用してトラブルを起こしにくいため子供用として使用します。
風邪薬も頭痛薬や痛み止めも全てそうです。
大人ですと薬の治験のアルバイトを目にしますが、同様に赤ちゃんでアルバイトの募集を見たことがありません。
薬全てにはそのような裏話が実はあります。
話を戻しますが、それでは歯科で使う麻酔に関しての安全性はどうでしょうか?
ハッキリとした細かい記憶は忘れてしまいましたが、実は日本小児歯科学会で各大学での麻酔とトラブルに関してデータの採取を行いました。
この時は、私自身も大学で診療をしていたので、データ採取に協力をしました。たしか1,000人のデータが集まったと聞いています。
結果として、全身疾患のある人の中で、一部の人に症状が出たが、それ以外では全くのトラブルが無かったと記憶しています。
近年ではアナフィラキシーショックを耳にしたことがあるかもしれませんが、歯科用の麻酔が直接入り、歯科用麻酔の30倍の濃度が入れば可能性は有ると言われていますが、通常では考えにくいです。ただ極限状態での事を想定すればリスクはありますが、それでは何も出来ません。
ちなみに全身麻酔の事故は、飛行事故より確率が低いです。もっと事故確率の高い車や電車に、事故を起こす可能性が有るからと言う理由で、電車や車に乗ったことがない人は何人いるでしょうか?
当然、体にとっての毒物である薬を使うので、正常な生体反応を示さないという意味では異常な状態ですが、それ以上の利益をもたらすという天秤にかけた時に、どちらが有益かで使用します。
歯科で使う麻酔に限らず全てそうです。
そのような観点から、麻酔を使わないで処置する危険性と麻酔をして安全に処置するのでは実はどちらの安全性が高いか考えると結果は自ずと出てきます。
麻酔のない時代は、歯を抜くのでショックで成人の死亡例の報告はは多く、麻酔の開発でそのような事例はなくなりました。
日本小児歯科学会の報告も含め、麻酔は使わないことに超したことはありませんが、必要な時に使わない方のリスクが高くなります。
虫歯の処置で使う麻酔剤
いくつかメーカーの違いや特性の違いの物があります。私の場合は3種類の麻酔剤を使い分けます。
- キロカイン(オーラ注)
- シタネスト
- スキャンドネスト
1番目のキシロカインは多くの歯科院で使用されています。親知らずの抜歯にも使えます。そして大半の歯科医院ではこれのみ歯科おいていないところもあります。
それでは、他の麻酔剤は?と鋭い人は思うかもしれません。
つい最近治療をしていて、ホクナリンテープを使っているお子さんが増えています。
実は、ホクナリンテープと1のキシロカインは、キシロカインの説明書では併用してはいけない禁忌の薬剤にしてされています。
ホクナリンテープは使用をやめて1週間で1/4のお薬が体内に残っています。そのため併用が可能な2番目のシタネストと3番目のスキャンドネストを使用します。
2番目のシタネストは状態によってはアレルギーを引き起こす可能性が指摘されています。一方。3番目のスキャンドネストは日本一安全な麻酔剤と言われています。
そうすると3番目のスキャンドネストを使用すれば良いのでは?と考えます。
スキャンドネストは30分で麻酔が切れ始めるので、唇を噛むリスクは減ります。しかし処置時間が短いため手術などに使いにくいのと、麻酔として効きが悪いので永久歯の奥歯では使用しにくいです。
さらに言うと血管収縮剤が入っていないので、抜歯には使用できません。
そのために2番目のシタネストが出てくるわけです。こちらは1番目のキシロカインに比べ効きは少し悪いですが、血管収縮剤が入っているので抜歯に使用できるのです。
しかしアレルギーを引き起こす物質が含まれているので、麻酔は苦手(気分的でなく体調的)の人には使いにくいのです。
上記の理由から全身に問題ない人は1番目のキシロカインを使用します。
ちなみに、アナフィラキシーショックを起こすリドカインは1のキシロカインのみで2のシタネストや、3のスキャンドネストには含まれていませんので、2のシタネスト、3のスキャンドネストではアナフィラキシーショックはおきません。
これらの麻酔時の特徴を利用して処置を進めていく事が重要で、それは歯科医師の先生がケースバイケースで最もベストな方法を選択すると思います。
このほかにも表面麻酔剤など、麻酔の痛みを最小限に抑える薬もあるので、担当の先生と相談してください。(当然デメリットもあります)
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